1923年のある日、カザンはアメリカ合衆国の西部に位置するカルフォルニア州サンフランシスコで休暇をとっていた。

カザンは軍人であり、口に立派な髭を蓄えている180cmを超える大男であるが、その反面鬱気質である男だった。カザンは学生時代からの友人であるマイケルからとある難事件の解決のお礼として別荘をもらい受けており、その別荘で体を休めていたのだ。

カザンが人間の本質、人間のあるべき姿について一人で考えているところに一通の手紙が送られてきた。差出人はマイケルであった。その内容は友人からとあるバーの招待状を2枚もらったので、一緒に飲みに行かないかという内容であった。

しかし、この時代のアメリカでは禁酒令が施行されており、国内で酒類を飲むことが禁じられていた。本来ならば、軍人であるカザンはそのような非合法である場所に行かないのが普通であろうが、この国の体制に疑問を抱きつつあるカザンは、まずはマイケルに話の詳細を聞きに行くことしたのだ。

待ち合わせ場所は、洒落た高級カフェであった。

photo of coffee neon signage
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待ち合わせの場所に着いたはよいものの、約束の時刻になってもマイケルは一向に来る気配を見せず、約束の時刻から2時間が経ち、痺れを切らしたカザンが席を立つと、聞き慣れた声が入り口から聞こえてきた。

「ごめん!遅れました!」

声の主であるマイケルは大声でそう言うと、カザンの方に駆け寄って来た。マイケルは175cmの細身の男であり、カザンとは正反対で楽天的な性格であった。

カザンが自分を睨んでいることに気づくと、マイケルは早口で使用人が無理やり起こしてくれず寝坊したこと、待ち合わせ場所を記したメモを間違えて捨ててしまったこと、財布を忘れたことに気づき途中で一旦帰ったことなどを説明し、それらを理由に許しを乞おうとしていた。

「決してわざとではないんだ!君を困らせようと遅刻したわけではない!ただしょうがなかったんだ!」

カザンは店の邪魔になっていることを察し、渋々マイケルを許した。マイケルはコーヒーを飲みながら自分の不動産会社が上手く行っていることや、これからの経済の動向について得意げに話し出した。カザンはその話を遮るようにして言った。

「何か話があるのではなかったのか。」

マイケルはその言葉を聞くと気まずそうに2枚の紙をカザンに見せ、他の人に聞こえないくらい小さな声で話し始めた。

「実はこの招待状はお得意様から貰ったもので、僕は受け取れないと断ろうとしたんだけど、1回くらいなら大丈夫と言われて…」

 カザンは呆れたような表情を浮かべ、落ち着いた口調で言った。

「今この国では、酒を飲むことは違法だ。お前も知っているだろう。」

マイケルはそれを聞き、笑顔を浮かべた。

「それについてなんだけど、そのバーは大物政治家も通っているらしいんだ。だから、そう簡単には足がつかないようなシステムになってる。だから安心してくれ!」

カザンは深いため息をついた。

「そういう問題ではないのだが…」

暫し沈黙が流れた。

「君だってこの法律に関して納得していないんだろう?この法律は、飲酒が正しいか正しくないかは別として、非合理的だからね。」

カザンは少し考えてからこう言った。

「確かに私はこの法律については反対だ。賛成派はメリットしか見ていない。デメリットも多くあることから目を逸らそうとしている。」

マイケルはそれを聞き、嬉しそうな顔をした。

「じゃあ行くことに決定だね!3日後ぐらいに行く予定なんだ!」

カザンは少し困った顔をしたが、仕方なく頷き、承諾した。

「私が禁酒法に反対であることと、バーに行くことがどう繋がるのかよく分からないが…お前がそこまで言うなら仕方ない…」

マイケルとカザンは日時や移動方法、荷物などの相談をした後、素早く会計を済ませて解散した。

「結局いつものようにマイケルの思惑どおりになってしまったな。まあそれも悪くはないが…」

家路につく途中、カザンはそう呟いた。

〜 つづく 〜


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